mOBSCENE

まだポケットから手を出すのがギリギリしんどい今、背中から冷たい風が差し込んできたとき、空を見上げると桜が咲き始めていた。

いつからだろう。忙しなく人が行き交う朝が好きになったのは。

おそらく初めての電車通学をした音楽専門学生の時代からかもしれない。今朝は久々の太陽の下であの頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。

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寿司詰の箱

朝七時過ぎの電車に揺られて担いだベースが折られそうになるほどの満員電車で通っていた18歳の春。それまで地元から出たことがなかった自分が、東京の学校に2時間以上かけて行くことになるなんて想ってもみなかった。そして、朝とはこんなにも多くの人々が動いているだと驚いた。今と一緒で見るものすべてが新鮮に感じる環境が変わる季節に、僕はROCKを学びにせっせと人混みを掻き分けていった。その先であった仲間たちと初めての海外に行くわけだ。

朝は元々苦手なのだが、あのとき感じた朝はどこか大人で、それなりに新しい毎日にわくわくしたけど、無言のまま行き交う群衆にどこか恐怖を感じていた。これから出て行くかもしれん社会は、こんなにも眉間に皺を寄せて辛そうな顔に変貌していくのだろうかと、強烈に不安になった。コミュニケーションも何もない。だからなにもわからないけど。携帯をいじるしか術のない狭い箱に閉じこめられて、それぞれの事情なんて全くもって見えなかった。というか知ることすら怖くなっていた。ただただ悩ましげなその表情の数々は、どこかこの社会が腐っているのだけは間違いないという確信にしかならなかった。

mOBSCENE

20代前半のとき、食い入るように見ていたマリリン・マンソンの音楽。中でもこのモブシーン(みだらな群衆という造語)はリアルタイムかつ生で見たマンソンの名盤だ。

ただのバイオレンスな反キリスト&ナチズム的なロックスターと思いきや、映画やドキュメンタリーなどでマンソンのイデオロギー全開の米国政府批判には定評がある。

とにかく群衆に対して中指を突き立てたくなる年頃の僕にとっては居心地のいいファイトソングになっていた。その後、海に出た今何がこの社会を壊しているのかというヒントをいくつか持ち帰れたことによって、そんな光景に対しての心境の変化は多く感じている。

それもその群衆だと想っていた多くの人々との一対一での人生を語る交流から得たものと言うことは言うまでもない。

星の数ほどいる群衆の中で、一人ひとりのドラマとの出会い

「百聞は一見にしかず」というが、普段、知らないことに対して一見も出来ないことは多いのではないだろうか?

また、周りみんなが敵と思う目もあれば、みんなが愛しくなる日もある。

そもそも「一人ひとりが違う」という前提の中では、「みんな」なんて言葉は成立しない。

船以外でもそう。自分勝手な人間が極端に嫌いだった(自分も含めて)僕にとって、それは「知らないこと」の宝庫だった。そんな「人」に対してのブロックが外れたのは船がきっかけではあるが、その後の僕は今でも船以外のコミュニティを大事にしている。それは世界や価値観を狭くしないためだ。

だから世間からはあまりいい顔をされないような人にも個人的に会いに行ってきた。今想えばそういうカテゴリーがあること自体が胸糞悪いが。

それでも、そこに向かって訴えかけようと人生を賭けている人たちもいる。僕自身、いつの間にかかけていた色眼鏡により、無意識で差別的発言をしてきたから人も傷つけ、それに気づくたびに幾度となく反省してきた。けどこれもまた巡り合わせ。それらを教えてくれる人と出会わなければ未だに狭い世界の住人としてあそこから抜け出せてなかっただろう。自分もその一人でありたいと思うし、どうにかその景色を変えたいと想う。少なくとも自分の目の前くらいは。

僕が言いたいことは宗教的なことでもなければ自己啓発でもない。ただ単純に常識を掲げるところこそ、そのまま真に受けるのではなく、その真偽を問う姿勢は崩しちゃいけないと想う。これは疑うともまた違うリテラシー(読解力)がいる。それを得ることが出会いの積み重ねであり、それは自然と自己投資となっていく。

そもそも正解も不正解も真実も嘘もない。だから素直に聴くことが大切なのではないか。

人は一人で生きてはいけないけど、いつだって目の前の色を変えることが出来るのは自分しかいないのだから。

行き交う人の群れ

一生懸命自分のことをカミングアウトしてくれる人からは、その心の重みと深さが感じられる。そんな出会いばかりを求め、わざわざ重ねてきたおかげで目と耳はこえてきたつもりだ。

あの頃嫌いだった人混みも、今は違って全く違う色に見える。

この人はどんな人生を生きているんだろう。誰と何を楽しみ、何と戦っているんだろう。

ほとんどの人とはすれ違うだけの人生交差点だからこそ、そう思うと今日の出会いも楽しみになる。

朝は四方八方から人がなだれ込む通勤路

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